いろはにほへと

本の紹介を、備忘録を兼ねて

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ディアスと月の誓約

『ディアスと月の誓約』乾石智子 乾石智子先生の作品との出会いはこの本だった。 それは少しもロマンチックでも衝撃的でもなかったけれど、今でもよく覚えている。 地元のよく行く本屋さんのひとつは、回転寿司の隣にある。その日は家族とお寿司を食べに行っ…

いのちの食べかた

『いのちの食べかた』森達也 ベジタリアンや、ヴィーガンという言葉を聞いたことのない人は少ないだろう。それでも一応解説しておくと、ベジタリアンとは肉や魚を食べない人々、ヴィーガンは肉や魚に加えて卵、乳製品、はちみつも食べない人々のことだ。肉や…

あかねさす

『万葉集の恋うた』清川妙 あかねさす 紫野ゆき 標野ゆき 野守は見ずや 君が袖振る タイトルは額田王のこのうたから。 以前、古典文学が好きだ、と書いたと思う。私は物語文学だけでなく、和歌も好きで仕方ない。 最初に好きになったうたは何だっただろう。…

松ノ枝の記

『道化師の蝶』円城塔 『道化師の蝶』収録二作品のうち、「松ノ枝の木」の方を 突拍子もない、とでも言おうか。とにかく、この物語は私の理解力の及ぶ場所になかった。なにを言っているんだ、と思い、同じ行を何度も読み直し、それでも全然理解できないまま…

ハンバーガーって何か知ってる?

今日は本を読む時間がまるでなくて、ろくな紹介を書けそうにないので、最近見た動画の紹介をする。 私も最近大学の講義で紹介されて知ったのだが、Youtubeで「ted」と検索すると、様々な人のスピーチ動画を見つけることができる。だいたい、5分から20分くら…

思い出のマーニー

『思い出のマーニー』ジェーン・G・ロビンソン(高見浩 訳) スタジオジブリがマーニーを映画化したとき、流れていたCMの主題歌があまりにも美しくて、これは観に行こうと決めた。(And I cry…のところでは何度聞いても泣き出したくなってしまう) 私は結末のわ…

ハッピーバースデー

『ハッピーバースデー 命輝く瞬間』青木和雄 誕生日に「おめでとう」と言ってもらえない子供がいることを、私はずっと知らなかった。 私がDVに興味を持つ最初のきっかけになったのがこの本だ。最初に読んだのは小学校三年生か四年生だったから、DVという言葉…

悲しみよこんにちは

『悲しみよこんにちは』サガン(河野万里子 訳) ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう。 物語の最初の一文だ。出だしから「あ、この物語は普通じゃないな」と感じる。普通じゃ…

人はなぜ物語を求めるのか

『人はなぜ物語を求めるのか』千野帽子 昨年に読んだ本で、Twitterで感想を呟いていたものをまとめなおす。どちらかというとコラムのほうの感想かもしれない。 この本は作者の連載コラムがもとになっていて、私はコラムを読んで本書の購入を決めた。 コラム…

おちくぼ姫

『おちくぼ姫』 (田辺聖子) 突然だけれど、日本のお姫様たちはかわいい。その意思の弱さはどうなんだ、と思うことも多いけれど、とにかくかわいい。今日はそんなかわいい日本の姫君の一人、おちくぼ姫の話をしようと思う。 昔話の好きな人なら知っているかも…

水に浮かぶ女

今日は趣向を変えて絵の話をしようと思う。私は絵を見るのが好きだ。残念ながら美術的な知識なんてものはなく、ただ美しいと思うだけなのだけれど。誰の絵が好きか、と聞かれると困ってしまうが、ミュシャは好きだ。あとは印象派とかラファエル前派の絵はよ…

禁じられた約束

『禁じられた約束』ロバート・ウェストール(野沢佳織 訳) 私は児童文学が好きだ。なぜか、と聞かれると答えに詰まってしまうけれど、とにかく好きだ。小学生あるいは中学生だった時分から読み続けている作品も多い。そのひとつがこれだ。ロバート・ウェスト…

わたしを離さないで

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ (土屋政雄 訳) 昨年だったか、作者のカズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞したので、知っている人も多いかと思う。数年前、日本でドラマ化もされていたらしい。(映画版はみたけれど、こちらは観ていない) 命に…

そして祈りをこめるもの

『双頭の蜥蜴』乾石智子 タイトルはセリフから 好きな本はたくさんあるけれど、好きな作者というのは実はあまりいない。 乾石智子先生は、私の数少ない好きな作者の一人で、生まれて初めてファンレターを送った相手でもある。もちろん返事など期待していなか…

会えなくなるから友達じゃなくなるのか

『消えてなくなっても』椰月 美智子 タイトルは登場人物のセリフから。 高校生の時に出会って、夏が来ると読みたくなる。 友情物語じゃない。 これは、愛の話だ。 愚直に、不器用に、自分たちが消えてなくなっても誰かに愛を繋いでいく。 「生きているか死ん…