いろはにほへと

本の紹介を、備忘録を兼ねて

松ノ枝の記

『道化師の蝶』円城塔

 

『道化師の蝶』収録二作品のうち、「松ノ枝の木」の方を

 

突拍子もない、とでも言おうか。とにかく、この物語は私の理解力の及ぶ場所になかった。なにを言っているんだ、と思い、同じ行を何度も読み直し、それでも全然理解できないまま次の行に進むしかなかった。

もちろん、私の読解力が足らないせいでもあるが、それを差し引いてもやっぱり突拍子もないような話だと思う。

 

定かでない彼によって今ここに私があり、私は未来から揺らぐ輪郭を見つめられている。自分というものの危うさと、モノカキとしての使命。松ノ枝の記に書かれている内容は、そんなところだろうか。でもそれは最も重要なことではない。あくまでも物語を構成する要素に過ぎない。

思うに、こういった類の物語は、「何を言わんとしているか」を理解するよりも、難しく考えずに雰囲気を楽しんでしまった方が良い。

 

「そう、彼は存在したのだ。ホモ・サピエンスに目撃された最後のホモ・ネアンデルターレンシスは確実に存在したのと同じに。」

 

頭の中であいまいに展開されるストーリーの中で、ただこの一文だけがざっくりと心に刻まれた。この一文ゆえに、私はこの『松ノ枝の記』が好きだ。ホモ・サピエンスに目撃された最後のホモ・ネアンデルターレンシスは確実に存在した、と何度心の中で復唱しただろう。そしてその度私の脳裏には社会の資料集に乗っていた人類の進化の想像図…ヒトと呼ぶにはおぼつかない猿人のイラストがぼんやりと浮かんだ。

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