凍りのくじら
お久しぶり。
夏休み、前半はバイトに明け暮れ後半は海外へ行っていたら、すっかりブログなどなおざりになってしまった。
久しぶりに紹介する作品はこちら。
『凍りのくじら』辻村深月
白く凍った海の中に沈んでいくくじらを見たことがあるだろうか。
最初の一文で、私はこの本の購入を決めた。
くじらたちは氷の海に迷い込み、閉じ込められてしまっている。
かわいそうに、海に住む生き物なのにくじらは空気を吸わねば生きていけない。
このくじらは間もなく力尽き、海に沈んでいく。
静かで切ない死。
私は昔水族館が嫌いだった。
じっと水槽を見ていると、自分もその中にいるような気分になり、かといって魚になり切れもせず…息ができなくなってもがいた。
あの、水槽に閉じ込められた錯覚のような閉塞感は、思春期の私のところへ度々やってきては悩ませた。
誰だって、わけのわからない閉塞感に悶えたことがあると思う。
この物語の主人公も、息を継げる場所の無さ、つまり寄る辺のなさに苦しんでいる。
彼女は自分を「少し・不在」と言う。
いろんな人たちと仲良くなれるけど、いつもどこか溶け込めない。
人から思われるほど、人を思うことができない。
それでも彼女は人と関わることをやめない。
私はそれを強さだと思う。
そして、彼女は彼女を思う人に照らされる。
息のできない暗い海底で、わずかに開いた氷の隙間から差す光はどれほど美しいだろうと思う。
その光の方に、息のできる場所がある。
その光の中でなら生きていける。
それは、命を繋ぐ希望の光。励ましの優しい光。
くじらは、私たちだ。
でもくじらでなくなった私は、誰かのための光になりたい。