いろはにほへと

本の紹介を、備忘録を兼ねて

そして祈りをこめるもの

『双頭の蜥蜴』乾石智子

タイトルはセリフから

 

好きな本はたくさんあるけれど、好きな作者というのは実はあまりいない。

乾石智子先生は、私の数少ない好きな作者の一人で、生まれて初めてファンレターを送った相手でもある。もちろん返事など期待していなかったのに、ご本人の手書きの手紙が送られてきてあまりの嬉しさに一人大騒ぎをした。乾石先生からの返信の手紙は間違いなくもっとも重要な私の宝物だ。

 

さて、乾石先生の作品は、大体が別世界を舞台にしたファンタジーだ。

その中でこの『双頭の蜥蜴』だけは、主人公が私たちの住む世界のNYと、別の世界を行き来する、異色の作品と言えるかもしれない。

 

「愛とは創りあげ、磨きあげていくもの。そして祈りをこめるもの。どこにいても何をしていようとも、幸せであれと願うもの。」

 

愛とは何か。答えは千差万別だろう。正解というものはない。ただこの問に対する数多の回答の一つがこのセリフ、というだけだ。

 

私にはこのセリフ、この物語をどうしても届けたい相手があった。そのひとは年上の女友達で、今でも私のとって姉のような存在である。彼女は家族との関係に苦しんでいた。

実はこの物語の主人公も、家族、特に母親との関係で苦しめられている。上記のセリフは、主人公が人を愛することとは何かを学んでいく過程でかけられた言葉だ。そして彼女は愛を知り、許せなさ、やるせなさの間で葛藤し、その黒い渦を心に抱えたまま光を見る。

私はただ、大丈夫だよ、と言いたかった。大丈夫だよと伝えるためだけに、この本を読んでもらった。たぶん、伝わったと思う。彼女は今日も苦しんでいる。私は今日も大丈夫を送り続ける。

 

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