いろはにほへと

本の紹介を、備忘録を兼ねて

ハッピーバースデー

『ハッピーバースデー 命輝く瞬間』青木和雄

 

誕生日に「おめでとう」と言ってもらえない子供がいることを、私はずっと知らなかった。

 

私がDVに興味を持つ最初のきっかけになったのがこの本だ。最初に読んだのは小学校三年生か四年生だったから、DVという言葉を知ったのはもっと後になってからだけど、この本に出会っていなければDVに興味を持つこともなかったと思う。

 

この作品のすごさは、200ページちょっとの間に機能不全家族スクールカーストによるいじめの問題をきちんと書ききっていることだ。機能不全家族はストーリーの序盤から終盤まで一貫して描写され、いじめは中盤、成長した主人公の見せ場となっている。

そのうえ、二つの暗いテーマを抱えながら、愛や幸せも暖かな日差しのごとく降り注いでくる。

 

私がこの本を読んで一番苦しかったのは、最後には機能不全家族もいじめも解決してハッピーエンドになるところだ。途中までは、主人公を自分に重ね合わせて感情移入して一緒に悩むことができた。ところが途中から主人公は自分と対極の存在になっていってしまう。現実はこんなにうまくいかない。小学生だった私にも、これは物語だ、とわかった。というより、感情移入していた主人公の中から弾き飛ばされて、何も解決しない自分の現実が目の前に横たわっていた。だからこそ考えたのかもしれない。うまくいかない、苦しすぎる現実を少しでも明るい方へもっていきたいと思った。もう何年も(もしかしたら10年近く)家族の在り方や、いじめの問題は私の中で渦巻いている。

 

 

この本は改訂版も出版されていて、そちらではメインの登場人物が増え、主人公の母親の心理描写がより細やかになっている。私はどちらかと言えば改訂前の方が好きだけれど、そこは個人の好みだろう。

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