鷲は舞い降りた
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ(菊池光 訳)
このところ、スパイに関する話を聞くことが多かったので、せっかくだから以前から気になっていたこの本を手に取ってみた。
これを言うとよく驚かれるけれど、私はたいていの本を結末から読む。
最後に主人公たちがどうなったかを知って、それから彼らを旅立たせる。
そうしないと、怖くてとても読み進められないのだ。
この本も他と同じく先に結末に目を通したけれど、もしかしたらその必要はなかったかもしれない。
なぜなら、これは史実をベースにした物語で、史実に沿った結末が待っているからだ。
ところで、私たち読者には、時折"神の目"が与えられる。
私たちは、主人公たちには知り得ない時間や距離、敵味方の関係性を飛び越えたすべての情報を受け取る。
だから、彼らより一歩先にこの先起こるであろうことを察知できてしまう。
完璧な計画の綻びにも気付くことができる。
しかし厄介なことに、神である私たちは、同時に傍観者であり、物語世界で展開されるあらゆる事象には介入できない。
爪を噛んで見守るしかないのだ。
ああそして、計画の足を引っ張る登場人物にイラつかずにはいられないあなたは、私と良い友達になれるかもしれない。
彼が気付いていない彼の失態に、思わず歯ぎしりするあなたのことだ。
結末と読者の視点の話をしたのは、何を隠そう作者を称賛するためだ。
ベースが史実である以上、最後の最後でどんでん返し、というわけにはいかない。語弊があるかもしれないが、読者はネタバレされた状態で読み進めているようなものだ。
にも関わらず、私たちは登場人物たちの一挙一動に興奮し、場面の緊張感に気圧され、最後には「あぁ、」と言わずにはいられないのだ。
さすがロングセラー作品だけある。あまりにも見事だ。
なんと、この本には続きがあるらしい。しかし、"死んだと思われた主人公が実は生きていた”という設定だそうで、読者によって賛否が分かれるようだ。
私は、今のところ読むつもりはない。
こんなにきれいに完結した物語の続きをわざわざ見に行く気にはならない。