いろはにほへと

本の紹介を、備忘録を兼ねて

あかねさす

万葉集の恋うた』清川妙

 

あかねさす 紫野ゆき 標野ゆき

野守は見ずや 君が袖振る

 

タイトルは額田王のこのうたから。

 

以前、古典文学が好きだ、と書いたと思う。私は物語文学だけでなく、和歌も好きで仕方ない。

最初に好きになったうたは何だっただろう。たぶん、山吹の句だったように思う。

 

七重八重 花は咲けども 山吹の

みのひとつだに なきぞかなしき

 

この句と出会ったのは中学生の頃だったか。そして私は山吹の花が咲くのを待ちわびるようになった。うたがひとつ私を豊かにした瞬間である。

 

私のお気に入りの句の多くは、草花や月について詠んだものだ。でも、記憶に深く刻まれることがなくても、読むたび心をときめかせてくれるのは、恋のうただ。

 

私は同じ年頃の女の子たちが少女漫画や恋愛小説を読んで「なんてロマンチック!」と目を輝かせていたとき、万葉集の恋のうたを読んで「なんてロマンチック!」とひとりときめいていたのだ。ズレていたとか、ひとと違う感性を持っていたとは思わない。私が少女漫画や恋愛小説を読んだら、きっと他の子たちと同じように目を輝かせたはずだから。ただ私は少女漫画でなく万葉集を選んだというだけのこと。そういう少女だった、それだけの話だ。

 

弁解はこれくらいにして、この本の魅力を語ろうと思う。

タイトルから分かる通り、この本は万葉集の膨大なうたの中から恋の歌だけ集めている。そしてそれらを、恋のはじまり、片思い、秘密の恋、などシーンごとに章をわけて紹介している。さらに、一句一句に内容の解説のほかにワンポイント解説をつけ、語彙や文法の説明をしている。私は語彙や文法をあまり気にしない質なので読み飛ばしてしまったが、今久しぶりに読み返してみると古典の勉強にぴったりな気がする。(勉強、と言っても本当にワンポイントなので肩肘張る必要はない)

 

最後に、私が最も衝撃を受けたうたを紹介して終わろうと思う。この本に収録されているうたでないことを断っておく。

 

あかあかや あかあかあかや あかあかや

あかあかあかや あかあかや月 (明恵上人)