変身
虫が苦手で、なおかつ想像力がたくましい、というひとは読まない方がいいだろう。
世界的に有名な作家の長く読み継がれる名作であっても、向き不向きというものがある。
私がしてしまったように、せっかくコンビニで買った新作の抹茶プリンの味を台無しにしてまで読むべき本なんてない。
それでも多大な犠牲を払ってまで読んだのだから、少しは内容に触れよう。
物語はひとりの男が朝目覚めて、自分の体が虫に変身してしまっていることに気付くところからはじまる…というのは、あまりにも有名だ。
驚いたのは、この虫に変身してしまった男グレーゴルが、「どうしたら人間に戻れるのだろう」と思い悩むことがないことだ。
私にも、人間でいるのが嫌になる時がある。
だけどそれは、人間の姿かたちをしていることが嫌なのではない。人間の心の有り様だとか、社会生活が嫌というだけだ。
虫の体になってしまったグレーゴルは、しかし心はおおよそ人間のままでいる。家族の言葉を理解するし、思考している。
体と心のその乖離に耐えられるだろうか。私は無理だ。
もしかしたら、グレーゴルも耐えられなかったのかもしれない。序盤、虫の姿のままで家族や仕事の心配をしていたグレーゴルは、物語が進むに連れ、人間らしい思考をほんの少しずつ手放していく。
それは、心が体の方に合わせようとした結果ではないだろうか。
そういえば、こんな言葉を聞いたことがある。
「人間は、器に合わせて大きくなることができる」
例えば、自分には到底務まらないだろうと思う役職についたとしても、その任務を全うしようと努力するうちにその役職にふさわしい人間になれる、という意味だ。
外見や肩書よりも能力や性質の方が大切だと言うけれど、器だってちゃんと大事なのだと思う。