オオカミ族の少年
『オオカミ族の少年』ミシェル・ヘイヴァー(さくまゆみこ 訳)
クロニクル千古の闇シリーズ
遊びに来た友人が嬉しそうに「これ読んだことある!」と言ってくれたので。
そのうち書くつもりだったし、ちょうど良い機会になった。
物語の舞台は紀元前4000年の森だ。人間たちはそこで、自然を崇拝し、その大きな懐に抱かれて暮らしている。太古の昔、厳しい自然の中で身を寄せ合って生きた私たちの祖先。星を読むことも、風の声を聞くこともできなくなってしまった私たち。
リスの肉のスープ、ノロジカの干し肉、薬草を入れた革袋、呪い師、赤土で刻む死の印…。私は紀元前の人間がどのように暮らしていたか知らないけれど、この物語に登場する人間たちの暮らしぶりはとてもほんとうらしく思える。強くて、弱くて、儚くて、しぶとい命たち。
そしてなによりも、「群れ」で暮らすこと。
ワタリガラス族、オオカミ族、アザラシ族、他にもたくさんの集団が、それぞれの秩序と掟のなかで暮らしている。もちろん、集団を超えた交流もある。
でも、主人公の少年トラクだけは、違う。彼は生まれてからずっと、父親とふたりで暮らしてきた。その父親さえも、物語の最序盤で命を落としてしまう。
彼はどの群れの一員でもなかった。
このシリーズは、天涯孤独になった主人公が仲間になったオオカミの子と悪に挑んでいく、いわば冒険物語だけれど、私はひとりぼっちの主人公が自分の群れを形成していく物語だとも思っている。
生きていくには、やっぱり群れの一員であるべきなんだと思う。誰かを気にする―お腹を空かせていないか、病気でないか、寒がっていたり暑がっていたりはしないか―そして、誰かに気にされること。理由を説明するのは難しいけれど、それは人間としてとても大切なことだと思う。